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◆帰化行政私論(2)「インバウンドと日本のビザ政策」

  • 松本 良太
  • 2016年4月28日
  • 読了時間: 8分

いつもご愛読いただきありがとうございます。 こんにちは。 東京帰化相談室の松本です。

桜もすっかり舞い散り、 新緑がまぶしい季節になりました。 おかげさまで当社も無事に新年度を迎え、 心新たに日々職務に邁進しております。 趣ある桜に代表されるように、 豊かな四季に彩られたこの国は、 外国人にとっても魅力的な観光地のようです。 近年、外国人の訪日観光を意味する 「インバウンド(Inbound)」という言葉が注目されていますが、 実際に、ここ数年間で訪日外国人客は急増しています。 日本政府観光局(JNTO)の発表によると、 2015 年の訪日外国人客数は前年に比べ47.1%増1,973万7千人にのぼり、 1970 年以来、45年ぶりに訪日外国人客数が出国日本人数を上回ったということです。 また、下記グラフからもわかるように、 日本人の海外出国人数(黄色)が近年減少傾向であるのに対し、 訪日外国人客数(青色)は2011年以来、右肩上がりで加速度的に増加しています。

※上記グラフは国土交通省観光庁HPより引用 当社が所在する東京・原宿の街も、 もとから外国人観光客が多いとはいえ、 特にここ最近、その割合が一層増え、 国籍も多様化しているような印象を受けます。 この流れに棹(さお)さしたい日本政府は、 それまで2020年に2000万人であった訪日外国人客の目標人数を、 2倍の4000万人に引き上げることを決めたようです。 さらに2030年には6000万人を目指すとか。 安部さんかなり強気ですよ。 このように近年急激に訪日外国人客が増えた背景には、 アジア諸国を中心としたビザ(査証)発給要件の緩和や免除政策、 免税措置をはじめとした官民連携による訪日プロモーション(ビジット・ジャパン事業)の始動、 その他円安基調や東京オリンピックの開催等が挙げられます。 確かに、外国人観光客が日本を多く訪れ、 彼らに日本の魅力を知ってもらうことは非常に喜ばしいことです。 加えて、日本経済の活性化という面でも貢献度は高いようです。 実際に訪日外国人客の旅行消費額に着目すると、 2012年に1兆846億円であったのが、 2015年には3倍増の3兆4771億円に膨れ上がっています。 単に人数だけではなく、こういった経済的・実益的側面についても、 日本政府は2020年に8兆円、2030年に15兆円を目指すと意気込んでいます。 一方で、日本人の国内旅行消費額は近年18~20兆円でほぼ横ばいに推移しています。 仮にこのまま進めば、旅先でお土産屋のおばちゃんに、 日本人客は財布の紐が固いから、 外国人客の方がウェルカムだわなんて言われる日がくるのでしょうか・・・。 それは極端な話であるとしても、 外国人客の旅行消費額の急増が日本経済に与える影響はかなり大きいものと思われます。 景気対策、地方創生等に意欲を示す日本政府にとって、 この追い風を何としても持続・発展させていきたいという熱意は至極全うだと思いますし、 規制緩和や受入体制の整備等、改善すべきところは積極的に見直していってほしいものです。 しかし、 どうやら浮かれてばかりもいられないようです。 外国人がたくさん遊びに来てくれるのはうれしいけど、 日本のマナーやルールはわかってる? 世界中でテロ事件が起きてるけど、 危ない人は入ってこない? 日本が暮らしやすいからって、 そのままオーバーステイになったりしない? そのように心配する声もあがってきそうです。 では、実際はどうなのでしょうか? 答えの前に、日本国の最近のビザ政策について押さえておきましょう。 日本政府は2013年3月に「観光立国推進閣僚会議」を設置し、 政府一丸となって観光立国を進める体制を整えて以来、 同年6月には「観光立国実現に向けたアクション・プログラム」を、 翌2014年6月には「アクション・プログラム2014」を策定し、取り組みを強化してきました。 さらに、 2015年6月には「アクション・プログラム2015」が発表され、 観光産業の強化や地方創生に資する国内観光の振興、 外国人ビジネス客等の積極的な取り込みや受入環境の整備等が盛り込まれました。 そのなかでも、ダイレクトに効果を示しうる政策として注目される取り組みがあります。 それは、『ビザ要件の戦略的緩和』です。 「緩和」というのは、 文字どおり「要件や制約をユルめる」という意味です。 通常、外国人が日本に来る場合は、ビザ(VISA/査証)が必要になります。 しかし、90日間を超えない短期滞在(いわゆる「観光ビザ」)に関しては、 日本政府は2014年12月の時点で67の国と地域に対してビザ免除措置を実施しています。 つまり「ノー・ビザ」で日本に旅行に来ることができるということですね。 逆に言えば、 それ以外の国と地域の方(例:中国やフィリピン、ベトナム等)はビザ申請が必要です。 しかし、 それらビザが必要な国の方々にとっても、 日本が魅力的な観光地として映ることに違いはないはずです。 また、特に中国人についてはかつて「爆買い」として騒がれたように、 日本に行ってみたいという方が多いように思いますよね。 でも、ビザが必要だし、ビザの審査は結構厳しい・・・。 これでは日本に行きたくてもなかなか実行に移せません。 そこで政府が考えたのが、上記の『ビザ要件の戦略的緩和』です。 中国やフィリピンのように、訪日にあたってビザが必要な国と地域のうち、 インバウンド観光の観点から潜在力の大きな市場をターゲットに、 ビザの要件をユルめてたくさん来てもらう!ってことでしょう。 実際に上記の国と地域に対して緩和がはじまるのはまだ先ですが、 今までも同様の目的でビザ緩和政策は少しずつ進められてきました。 そのなかでも大きな動きとしては、 2013年7月からスタートしたタイ、マレーシアのビザ「免除」と、 2014年12月のインドネシアのビザ「免除」です。 免除ですから、ビザなしでOKってことですね。 (※ただし、滞在日数や対象者は限定されています。) さぁ、その結果どうなったか。 訪日観光客数が増えました。 ハンパなく。 いずれも2倍近くに増えました。 政府の思惑どおりです。 よかったです。 これでいっぱい日本で買い物してくれます。 マーケットは活気付き、経済も潤います。 日本をめいっぱい楽しんで、 たくさんのお土産と素敵な思い出を持ち帰ってくださいね^^ ごきげんよう。

さぁ、ここで先の例題に戻りましょう。 本当に「めでたしめでたし」だったのでしょうか? 残念ながら、 在留期限が過ぎても日本に残ってしまった人たちがいたのです。 しかも結構な人数が・・・。 いわゆる「オーバーステイ(不法残留者)」です。 私事ですが、 先日、第二東京弁護士会の公法研究会が主催する研修会に参加させていただき、 訪日ビザ(査証)実務を管轄する外務省領事局の外国人課長の方に 直接お話をおうかがいする機会に恵まれました。 そこで提示された資料によると、 近年ビザ免除が実施されたタイ・インドネシア・マレーシアについて、 平成28年(2016年)1月1日現在の短期滞在の不法残留者数を、 ビザ免除前の年と比べると、 タイが5,959人(86%増)、インドネシアは2,228人(152%増)、 マレーシアは国の経済が安定化したこともあり、 20%減の1,763人という結果となったようです。 ビザを免除して観光客が増えたのはいいけど、 その分不法滞在者も増えたんじゃ、ビザ緩和も考えものですね・・・。

平成28年(2016年)1月1日現在の日本における不法滞在者は、 合計で62,818人です(もちろん当局が把握している限りにおいてです)。 多いと思うか少ないと思うか。 じつはこれでもかなり減ったのです。 今から20年以上前の平成5年(1993年)には、 今の5倍近くの約30万人の不法残留者が滞留していたのですが、 治安当局の取締り強化もあり、 つい2年前の平成26年(2014年)まではずっと減り続けてきました。 ところが、 ここに来てまさかの2年連続の増加です。 この現実には、 当然ながら外務省や入管当局も頭を悩ませています。 そうは言っても、外国人観光客誘致による経済効果はやっぱり欲しい。 つまるところは、 国内の安全・秩序と観光立国を両立させつつ、 相手国政府との二国間や関係省庁間で連携しながら、 戦略的ビザ緩和を迅速に検討・実施していくほかないのでしょう。 バランスが大切。 キーボードで打つのはとても簡単です。 日本の外交官で、 第二次世界大戦中、ナチスドイツ迫害から逃れてきた大量のユダヤ人に、 「命のビザ」を発給したことで知られる杉原 千畝は、 このような言葉を残したそうです。 「世界は、大きな車輪のようなものですからね。 対立したり、あらそったりせずに、 みんなで手をつなぎあって、まわっていかなければなりません。」 そんな信条を胸に、 じっくりとこの課題に向き合っていきたいものです。 インバウンド、つまり訪日旅行ではじめて日本を訪れた外国人が、 日本の魅力にとりつかれ、あるいは日本人等と結婚し、 日本で中長期滞在、ひいては永住するようになる。 そして、中長期滞在や永住の先に、 いずれ日本国籍取得(帰化)という選択肢が出てきても何ら不思議はありません。 このように長期的視点でとらえれば、 帰化行政もインバウンドと同じパースペクティブに位置し、 インバウンド(はじまり)のいわば終着点として事実上機能しているはずです。 そうなると、 (一時的な)盛り上がりを見せるインバウンドを取り巻くビザ政策だけではなく、 外国人が日本人になるという重要な法的手続きを司る帰化行政についても、 上述した国際動向も踏まえた「世界の中の日本」というマクロな観点で 制度や法律、審査運用がどうあるべきか、 国民レベルでの議論や検証があってもいいのではないかと、 街行く外国人観光客とすれ違うたびに、悶々と考えてしまう次第です。


 
 
 

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